
ケース1 退職金の積み立て
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従業員は雇用の確保をはじめ様々な法律で守られていますが、経営者の場合、自分の身は自分で守らなければいけません。
そこで、経営者ご自身の自己防衛の強力な手段として、是非とも意識して頂きたいのが、『退職金の税制優遇』です。
こちらは、経営者の方にとって、唯一と言ってもいい非常に優遇された制度となります。
まずオーナー経営者にとって退職金がなぜそんなに重要か、という理由ですが、第一に「受け取れる金額が大きい」ということがあります。
一般的に経営者の退職金の計算式は「最終報酬月額×在位年数×功績倍率」といわれます。会社としては、この金額までは利益処分ではなく、非課税で退職金を支給できる・・・という枠になります。
在位年数は取締役としての在位年数ですから、例えば月給100万円、在位年数35年の経営者が勇退する場合、100万円×35年×3(一般的には功績倍率は3倍前後といわれています)=10,500万円となり、1億円以上の退職金を非課税で支給することが可能です。
そして第二に、単に支給できる金額が大きいだけでなく「歩留り」が高い、つまり税制面での優遇が大きく、経営者個人が受け取れる金額の手取りが大きくなる、ということです。
もしも退職金で支給した場合と、そうでない場合とで、どのように変わってくるかを確認してみましょう。
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- ●役員賞与の場合
- 1億円を役員賞与で経営者に支払ったとしたら、まず利益処分ですから、法人税(約35%)がかかって、1億円が6,500万円程度に目減りします。さらに、所得税・住民税も最高税率がかかり、経営者の手取りは3,000万円程度になってしまいます。
- ●役員報酬の場合
- 1億円を役員報酬、給与として経営者に支払ったとしたら、法人税はかかりませんが、所得税・住民税は最高税率がかかるため、手取りは4,500万円程度になってしまいます。
- ●退職金の場合
- 上の2つの場合に対して、1億円を退職金として、経営者に支払った場合はどうなるでしょうか。
この場合だと法人税はかかりませんし、所得税・住民税に関しても大幅な税制優遇があるため、手取りは8,000万円程度となり、圧倒的に歩留りが良く、実質的な受取額が極めて大きくなります。
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退職金には老後の生活保障という概念が含まれているため、「退職所得控除」「1/2課税」「分離課税」という、3つの大きな税制優遇があるわけです。
ただし、ひとつ「大きな落とし穴」があります。それが、退職金の準備方法、つまり「退職金の原資を何で積み立てるか」ということです。
もし単純に銀行預金で積み立てた場合、当然ながら積立金(退職金原資)を経費として「損金処理」することができませんから、毎年、毎年、法人税を支払った後の目減りしたお金、つまり税引後のお金でコツコツと積み立てることになります。そして、最後に、退職金1億円の受取時に経営者個人として所得税・住民税を支払って最終的には約80%の8,000万円の受取。
つまり、毎年法人税(約35%)を支払った後の65%に目減りした税引き後のお金で積立を行って最終的に約80%の手取りになるわけですから、実質的な歩留りは
65%×80%=52%
そう考えると、大きなメリットとは言えなくなってしまいます。
ですから、退職金制度のメリット、税制優遇のメリットを最大限生かすには「生命保険で積み立てを行う」のが必須、と言われています。
損金性の生命保険で、退職金を積み立てた場合を考えてみましょう。
仮に、保険料が全額損金処理できて、100%貯まる保険の場合、実質的に法人税を払う前、税引前のお金で積み立てることが可能となる為、先ほど65%×80%=52%の歩留りになるのと比べて
100%×80%=80%
となり、退職金制度の税制優遇メリットを最大限享受することが可能となります。
最近は、保険料全額損金で100%お金が貯まる保険は限定的となりましたが、仮に、保険料の1/2が損金で処理できる保険だったとしても、損金にできない1/2には毎年法人税(約35%)を支払い82.5%になった税引き後のお金で積立を行うので、
82.5%×80%=66%
となります。銀行預金で積み立てる場合に比べて実質的に15%以上も歩留りが良く、非常に効果的と言えます。
以上の事から、退職金の原資は「損金性の生命保険で積み立てる」のが鉄則となり、そうでなければ退職金制度の税制優遇メリットは実質的に生かせない、と言えます。

